生姜の旬はいつだろう。夏に出回っているイメージもあるけれど、それらの多くはハウスで栽培されたもの、または露地で栽培され生育途中に早取りされたもの。いわゆる「生姜」といわれる品種は本来春に植え付けて秋に収穫され「旬」を迎える。
とれたてほやほやの生姜は「新生姜」と呼ばれ、やわらかくてみずみずしく、通常の生姜と比べると辛みがマイルドなのが特徴だ。白い肌にかかるピンク色がフレッシュ感を一層高めるのだが、これはアントシアニンという色素。甘酢漬けがピンク色なのはこの色素が、酢に含まれるクエン酸と反応するためだ。お寿司に添えられている「ガリ」がピンク色だったり黄色っぽかったりするのは、この色素があるかどうかの違い、つまり新生姜かそうでないかの違いである。新生姜はとてもデリケートなので、保存方法に気をつけて、早めに食べるか加工することをお勧めしたい。
一方、秋に収穫したものを新生姜として出荷せず、翌年まで貯蔵したものは「囲生姜(かこいしょうが)」もしくは「ひね生姜」と呼ばれる。スーパーなどで普段見かける生姜の多くがこれである。新生姜よりも辛みが強めで繊維質、新生姜よりも黄みがかっているのが特徴だ。こちらは数カ月しっかり睡眠を取って底力(?)を蓄えているので、品質のよいものなら適切に保存すれば数カ月もつことも。
さて「ピンク色の生姜」と聞いて、甘酢漬け以外に思い浮かぶものがもう一つないだろうか。そう、牛丼やお好み焼き、ちらし寿司やいなり寿司などに添えられている「紅生姜」だ。ピンクはピンクでもこちらは「生姜の梅酢漬け」。もっといえば梅酢に赤しそと一緒に漬け込んだ生姜なのだ。つまり、紅生姜のピンクは赤しその色素によるものなので、新生姜でなく囲生姜を漬けてもピンク色に染まるのである。
ではこの赤しその色素の正体は…? 答えはアントシアニン。あれ? めぐりめぐってアントシアニンに戻ってきてしまった。では、赤しそに囲生姜を漬けたら、ピンク色に染まって新生姜に若返り!?… なんてことはあるわけがない。
生姜は塊茎(かいけい。養分をたくわえて肥大した地下茎)の形状や大きさによって「大生姜」「中生姜」「小生姜」に分けられる。スーパーなどで最もよく目にするのが大生姜で「生姜」といえば一般的には大生姜を指すといってもいいくらい多く流通している。大生姜で知られる品種は国内生姜の多くのシェアを占める高知の「とさいち」や長崎の「おたふく」などがある。もう少し小ぶりな中生姜は辛みが強いのが特徴で、漬物などの加工品になることが多い。「黄金生姜」などの品種がある。大生姜と中生姜は塊茎が大きく成長したものが収穫される。このような生姜を「根生姜」と呼ぶ。さらに小さいうちに収穫されるものが小生姜で、生でも食べやすく、茎付きのまま醤油や味噌などをディップしていただくのもよし。小生姜を代表する品種は「谷中生姜」で、まだ小さいうちに葉が付いたまま若取りされる。このような生姜を「葉生姜」と呼ぶ。小生姜の品種の一つ「金時生姜」はやわらかくなるよう栽培して芽の部分(芽生姜)を取る。このような生姜を「矢生姜」と呼ぶ。金時生姜はほかに、茎が付いたまま根を筆のようにむいて「筆生姜」に、それを甘酢漬けにして「はじかみ」に使われる。焼き魚などに添えられている細長いピンク色のあれだ。「はじかみ」は生姜の別名でもあり、昔は山椒と共にそのように呼ばれていたようだ。「〜生姜」のオンパレードに頭が混乱しそうだが、生姜にこれほどさまざまな見方があったとは面白い。
生姜はいろいろな名前を持つ不思議な野菜。「種生姜」を植えて、そこから生えてくるのが「新生姜」、新生姜を産んだ種生姜が「親生姜(古生姜)」、新生姜を貯蔵したものが「囲生姜(ひね生姜)」という具合だ。囲生姜から出てきた芽生姜の漬物は高級料亭で箸休めとし出されることもあるそうだ。おのみち潮風生姜では、これら全てを販売している。
生姜のサイクルをざっとまとめると、夏に「新生姜」として出回るのは冬に植えられハウス栽培で育ったものか、露地で育って早取りされたもの。秋に「新生姜」として出回るのは、春に植えられ露地栽培で育ったもの。秋に新生姜として出荷しなかったものは貯蔵され「囲生姜」として翌年の一月くらいから出回る、という流れになる。スーパーなどで時期を問わず見られるのは、前年の秋に収穫されて貯蔵されていた囲生姜というわけだ。今回購読者の皆さまにお届けするのは、露地で栽培されてこの秋に旬を迎え、収穫されたばかりのとれたて新生姜だ。生姜の種類とサイクルを知っただけでも、ちょっと生姜を語りたくなってくる。これまで「生姜」とひとくくりにして、特別深く考えることがなかったことが、なんだかもったいない気持ちになってくる。そして、振り返ればさまざまな料理や飲み物など食生活の中で生姜には大変お世話になっていることに、あらためて気づく。
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