2016年、以前勤めていた会社で日本の食品自給率のことについて考える機会がありました。あまりにも低い食品自給率に驚きを隠せず、これは何とかしないといけないのではないかという使命感みたいなものが生まれ、事業として農業に取り組もうということになりました。
ですが何から取り組んで良いものか悩み「農業とは何か?」と、分かりやすくもあり、考えれば考えるほど分からない「農業」について、基本を学ぶことから始まったのです。
書店で大量に農業に関する書物を買いあさっては黙々と読む日々。農業を勉強していく中で分からないことが多くあり、正直自分で学ぶには限界を感じていました。
ある時、関東に出張するタイミングがあり、この機会を活用して農業の専門家の方々に会って、農業について、特に土壌の環境について、詳しく情報収集しようということに。そこで一般財団法人日本土壌協会、筑波大学、農業用ミネラルを開発している株式会社川田研究所へ訪問することになりました。
一般財団法人日本土壌協会では日本全国に広がる土壌の細かな特徴について、筑波大学では原始時代から現在までの間にどのようなことが起きて現在の土壌になったのかについて、それぞれ詳しく学びました。ですが私が一番知りたかった「自然の条件から良い土壌をつくること」「農業とミネラル」には辿り着けず、半ば諦めていました。そんな中で最後に株式会社川田研究所へ伺いました。
初めてお会いした川田社長に、私たちの農業におけるこれまでの経緯や「自然の条件から良い土壌をつくること」「農業とミネラル」について現在悩んでいることを正直にお話しました。川田社長は私の考えや疑問に何も驚くことなく、農業とミネラルの関連を紐解く「地球農学」について、素人の私にも分かりやすく講義をしてくださいました。その中で農業の「生物性」「物理性」「科学性」の三つについて詳しく学び、なるほどそういうことかと、完全に納得してしまったのです。この出会いが「地球農学」に基づく農業を実践するきっかけとなりました。
初めて訪問した株式会社川田研究所で講義を終えて「食べてごらん」と差し出された小玉西瓜。それまで私は西瓜があまり好きではなかったのですが、川田研究所で栽培された小玉西瓜を食べた瞬間、こんなにおいしい西瓜が世の中に存在していることに驚いたのです。すぐさまこの小玉西瓜のとりこになってしまいました。
こんな小玉西瓜が栽培できれば、世の中の人に絶対に喜んでもらえるはずだという確信が芽生えた瞬間です。
wagricaでは無化学肥料・無農薬栽培を実践していますが、これらの栽培方法は農作物の種類によって向き不向きな土壌があります。不向きな土壌をどのように改良し良い農地にすることができるのかを追究する中で、あらゆる方が無農薬は本当に難しいと言われます。ですが、私は絶対にこの方法「無化学肥料・無農薬」で栽培し「世界で一番おいしい、安全な小玉西瓜を栽培する」という信念を持っています。
無化学肥料・無農薬栽培における最大のポイントは「入念な土づくり」。土壌本来の地力を高め、土中細菌類、特に放線菌の活動を活発にし、農作物の病気の原因といわれている糸状菌(カビ類)を減らしていきます。さらに圃場を細かな部分まで管理し、虫などの被害が及ばないよう小まめに雑草を除去し、少しの変化も見逃さないよう日々の観察を怠らないこと。そういった積み重ねが大きく影響します。
wagricaでは自社の農地だけでなく、事業として「農地の土壌検査」に取り組んでいます。現在、日本中どの地域の田畑でも連作に次ぐ連作で土壌は疲弊し、農作物は連作障害をはじめさまざまな病虫害に侵されています。中には農薬を施しても駆除できない病虫害さえ発生してきているという深刻な状況にあります。
これらの問題を解決する手段として、化学分析し、その結果に基づき欠乏した成分を投入し、発生した病虫害には農薬を散布するという方法が用いられていますが、連作障害や病虫害の問題はいまだに解決されていないのが現状です。
なぜ病虫害の多い土壌があるのか、分析してみると理由が分かる場合があります。従来の化学分析に加え、土壌中の全炭素量や全窒素量、可給態窒素量の測定や、土壌硬度計による物理性の測定、さらに土壌微生物の菌相分布の測定を取り入れることにより、土壌や植物の状態を総合的に評価できます。
これらの分析結果を一時期だけ考慮するのではなく継続的に分析することで、根本的な解決方法が見つかるはずです。持続的に生産可能な土壌をいかにつくるかが今とても重要とされている中、基本となる土壌分析を継続的に実施することによって現状を把握し、処方箋を書くことができます。このような取り組みをこれからも発展させ、農家さまの悩みを解決する方法を一緒になって考え、その方法を具体的に提案していきたいと考えています。
小玉西瓜ができるまでのストーリーをお話しします。前述の通り、wagricaが小玉西瓜づくりで大切にしているのは、何といっても土づくり。県北の安芸高田市は市内に比べると暖かくなるのが少し遅いので、3月初旬から始動します。まずは各圃場の土壌検査。それぞれの圃場から採取した土を化学分析し、検査結果の計量証明書を見て、各圃場の状況を数値で確認します。
そのデータを基にして、次に施肥設計を考えます。圃場に入れる必要のないものをドカドカ入れても、養分は濃くなり、植物が吸収できません。たとえばペーハー値が極端に高くなれば、植物は養分を吸収せず、水分だけを吸収し、その影響で生育が遅くなり、生理障害をきたすこともあります。そうしたことを回避するためにも土壌分析は絶対に必要です。
土壌分析と施肥設計が終わると、次は圃場に手を入れていきます。トラクターで圃場を耕耘し、耕した土壌に農業用ミネラルを散布、この2工程を数回繰り返します。この農業用ミネラルが、私たちが実践する「地球農学」においてとても重要な役割を果たします。
小玉西瓜を定植する2週間~1カ月前くらいから完熟堆肥や有機肥料などを入れ、再度耕して農業用ミネラルを散布します。特に堆肥が圃場に入って以降、圃場の放線菌の量は増えます。そこにミネラルが入っていくと一気に放線菌の量が増えます。ミネラルは菌の餌になっていると考えてもいいかもしれません。
土づくりが終わり、苗を定植したら、根が土壌に活着するまで苗に紙製の三角キャップを被せます。直射日光を防止し活着を促進するためです。苗が土壌と活着したのが確認できたら。三角キャップを外します。
しばらくすると芽がどんどん伸びていきますので、大きくなっていく前に「摘芯」します。小玉西瓜の本蔓を切る作業です。本蔓の5節目~7節目より先を切り落とすことで子蔓が伸びてきます。今度はその子蔓を伸ばして、一番元気な4本の子蔓を残し、それ以外の蔓は全て取り除きます。
そのような作業を進めていくと、最初の一番花が咲き、さらに成長が進むと今度は二番花が咲きますので、そのタイミングで受粉作業に入ります。4本蔓があるうちの3本に受粉させ、1本は光合成用に残しておきます。蔓の15節目~20節目で受粉させることがいおいしい小玉西瓜を収穫する条件でもありますので、とても神経を使います。
無事に受粉が成功するとあとは大きくなるのを待つばかり…と言いたいところですが、私たちはさらに「芽かき」という作業を、収穫のその時まで延々と続けます。最後に4本の蔓を残すわけですが、この4本以外に出てくる子蔓や孫蔓を全て除去するのです。
理由は単純で、小玉西瓜そのものに栄養がたくさん行き届くようにするためです。ですが、夏の暑い時期にこの作業を続けるのは至難の技。西瓜の名産地である熊本県や茨城県の西瓜農家のほとんどは、この「芽かき」をすることなく全て放任で栽培しているようです。理由は「キリがない」。一つの株を手入れをしているうちにほかの株の蔓がどんどん伸びていきますので、広大な圃場では芽かき作業が追いつかない、さらには夏の厳しい暑さで体が疲弊するためだそうです。そのような過酷な作業と承知の上で、私たちはコツコツと芽かきを続け、小玉西瓜の手入れに励んでいます。
おいしさの本当の秘密をお話しすることはできません、企業秘密ですから(笑)。
wagricaを設立する前に、どこか大きな圃場で小玉西瓜を栽培したいと農地を探していました。私の父に良い場所はないかと相談したところ、父の知り合いの方が、安芸高田市農業委員会の存在を教えてくださいました。早速、電話で連絡をして、農地の相談に伺ったところ、こちらがびっくりしてしまうほど、とても熱心に対応していただきました。この時に農地を探してくださった安芸高田市農業委員会の存在がなければ、安芸高田市で起業、農業をすることにはならなかったと思います。
そしてタイミング良く、安芸高田市役所観光課が主催した「サテライトオフィスツアー」に参加して、安芸高田市のことをたくさん知ることができました。今でも不思議なのですが、私たちが農業に本腰を入れたタイミングが全てだったと、そう考えるほかありません。いざやる気になって動き始めると、不思議なことも重なり、あっという間に話が進んでいきました。
安芸高田市の良いところは、何より広島市内に比べて、ゆっくり、のんびりしているところです。田舎に行けば、必ず誰もが感じる「安心」ってありますよね。風景の見通しも良く、山や緑が多い。そこにプラス、人が温かく、面倒見が良い。この地域にいらっしゃる方々は基本的に明るい方が多く、馴染みやすく、すぐに仲良くなれました。
八千代町は安芸高田市の中で、広島市内から最も近い町ですから、もっとたくさんの方に足を運んでいただけるような場所をつくりたいという思いがあります。その理由の深いところに、安芸高田市の人口問題があります。安芸高田市は年々人口が少なくなっています。特に子どもたちがしっかり遊べる場所がもっとあればいいなと。私たちも、そうしたすてきな場所を提供できないだろうかと考えています。子どもを育てやすい場所には、子育て世代の方々が集まってきますから。
農業を始めて以来、自分の畑で農作業を通して発見できたことをデータとして管理し、ものづくりに反映させていく日々の連続です。こうした努力は、農業に取り組み、おいしい農作物を栽培する基本そのものであり、何より大切なことだと考えています。
私たちの農業に対する「信念」を出来上がる農作物にどう反映させていくか。私たちの製品を手にするお客さまに「感動」と「本当のおいしさ」をお届けしたい。笑顔で食べていただき喜んでもらえることを強くイメージして栽培するのです。ジョンレノンの歌にもありましたね(笑)。良いことをイメージすることが大切です。
その一方で、反対にあまりムキにならないこと(苦笑)。まだ起業して2年目です。あまり目標を大きく掲げすぎると、自分も皆も大変なことになりそうですから(笑)。コツコツとシンプルに「地球農学」を追求していきます。
wagrica公式サイト
https://wagrica.co.jp/
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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。