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ひろしま食物語 ひろしま食物語

アスパラガスに出会う

2017年3月執筆記事

広島県三次市吉舎町
おかもと農園

岡本明憲・岡本久美

 初めておかもと農園を訪れたのは2016(平成28)年の4月。それから何度も訪問したが、いつも久美さんは太陽のような笑顔で迎えてくれ、隣では明憲(あきのり)さんがニコニコと寄り添っている。ほっとする光景だ。
 畑には11棟のビニールハウスが並び、株の年齢ごとに分けられている。ビニールハウスの中には土からニョキニョキ顔を出すたくさんのアスパラガス。「ぜひ食べてみて」と久美さんが差し出してくれたアスパラガスをかじった瞬間の感動は忘れられない。ジュワッと滴る水分、口の中に広がる甘み、穂先と根元ではまた甘さが違う。今度は「自分で好きなものを選んで食べてみてください」と言われ、スケール付きの専用ハサミで、成長の目安である25センチに達し、どっしり伸びている太めのものをチョイスしてガブリ。これはやみつきになりそう…。
 「どんどん伸びてきますよ」その言葉通り、到着直後に一通り収穫したハウスも、撮影が一段落してから戻って来ると、さっきまで頭しか見えていなかったものもスッと姿勢を正して立っている。数時間でこんなにも成長するものかと驚かされた。
 おかもと農園には25年を超える株が健在。こちらは先ほどの若い株とは違い、深い旨味が魅力で、料理人などプロにもファンが多い。「10年くらいは持つ」と言われて入れた株だが、病気にかかることもなく、10年どころか、どんどん元気になっているという。今でこそハウス栽培が普及して株が長持ちするようになってきたが、当時から、それも25年も株が生き続けているのは、徹底した管理の賜物。おかもと農園が目指すのは、株が長持ちする「アスパラガスに優しい農業」。「おかもと農園さんのアスパラには、作り手の深い愛情を感じる」畑を見学に訪れていた料理人さんの言葉だ。

 明憲さんは吉舎町生まれの吉舎町育ち。かつては県の職員で、広島市内の養鶏の試験場に勤務していたが、1972(昭和47)年、22歳の時、吉舎町に戻り、両親と一緒に実家で暮らすようになった。明憲さんの両親は自宅と同じ場所で養鶏場を営んでいたが、明憲さんは独立し、世羅との町境にある山のてっぺんに新たな養鶏場を開いて生計を立てていた。久美さんが吉舎町に嫁いできたのは、それから11年後、1983(昭和58)年のことだった。
 久美さんは別府出身で、大の温泉好き。生き物が好きで、テレビで頻繁にクローズアップされていた北海道の雄大な風景と酪農に憧れて、農業の道を志すようになった。公務員だった父親は、温泉を利用して花を育てる農業を始めてはどうかと勧めてくれたが、どうせなら大好きな生き物に関わりたいと畜産を選んだ。
 現在広島大学がある場所に、当時は県立農業短大があり、そこで2年間学んだ。広島にはそれまでも何度か訪れており、父親が江田島の海軍出身で、姉も広島大学の看護学校を出ているという縁もあって、海があり、山があり、大分と気候も似ていて、好きな土地だった。
 大学を出てから就職する際、第一希望は酪農だったが、女性は体力仕事に向かないし現場では続かないだろうと、正社員の求人はなく、第二希望の養鶏に進んだ。入社した会社に出向してきた明憲さんと知り合い、24歳で結婚した。
 久美さんが嫁いだ当初は、明憲さんの親の代から営んでいた養鶏(採卵)と米との兼業で、自宅から車で10分ほどの養鶏場に毎日通っていた。規模は3棟で1万5千羽ほど。畜産出身の久美さんは、米については全く知識がなかったため、明憲さんとお母さんとの会話に何とかついていきたくて、勉強を始めた。

 1986(昭和61)年、農業改良普及所が、新たに農業に参入する人を対象に開いた米についての研修に参加した時、これから三次はアスパラガスを推進していくという話を聞いた。アスパラガスについての講義を聴いてみると、肥料がたくさん必要だという。それなら鶏糞を利用できないかと考え、家に帰ってさっそく明憲さんに話してみた。それを聞いた明憲さんは、まずアスパラガスについて知識を深めようと、1年ほど生産地を回った。翌年、1987(昭和62)年に、養鶏場の隣の山林を切り開いてアスパラガスの栽培を始めることとなった。最初は露地栽培(作物を屋外の畑で栽培すること)でのスタートだった。
 二人で、冬の雪の中、木を切って歩き、山を切り開いた。その面積約50アール。怖いもの知らずでアスパラガス栽培に飛びついたものの、1週間ですさまじく育ち、収穫が追いつかずてんやわんや。よく知る人には、いきなりそんな広さで始めるとは無謀だとあきれられた。しかし、何はともあれ、おかもと農園のアスパラガス作りは始まった。
 1989(平成元)年には、国の政策で補助金を使って区画整理をすることになり、その際、所有している田んぼを転作しなければならなくなった。それなら三次の推進作物であるアスパラガスを植えようと、転作を決めた。

おかもと農園

広島県三次市吉舎町丸田504
Tel. 090-9739-0169

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。